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東京地方裁判所 平成8年(特わ)423号 判決

裁判所書記官

村瀬雅春

本店所在地

東京都世田谷区奥沢四丁目四番四号

白井建設株式会社

(右代表者代表取締役 白井六三郎)

本籍

東京都目黒区碑文谷一丁目一一九五番地

住居

同区碑文谷一丁目五番一二号

会社役員

白井六三郎

昭和八年一月九日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官立澤正人、弁護人遠藤隆也各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人白井建設株式会社を罰金一八〇〇万円に、被告人白井六三郎を懲役一〇月に処する。

被告人白井六三郎に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人白井建設株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都世田谷区奥沢四丁目四番四号に本店を置き、建築請負工事等を目的とする資本金五〇〇〇万円(平成六年五月一一日以前は三〇〇〇万円)の株式会社であり、被告人白井六三郎(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空外注費、架空外注工賃を計上するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成三年一一月一日から平成四年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六四六七万〇六二五円(別紙1の1の修正損益計算書及び別紙2の1の修正工事原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成五年一月四日、東京都世田谷区玉川二丁目一番七号所轄玉川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二五九二万五五三七円で、これに対する法人税額が八〇六万七四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成八年押第六〇七号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二二五九万六八〇〇円と右申告税額との差額一四五二万九四〇〇円(別紙3のほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成四年一一月一日から平成五年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億〇九四四万一〇五二円(別紙1の2の修正損益計算書及び別紙2の2の修正工事原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成六年一月四日、前記玉川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一〇五二万五三一一円で、これに対する法人税額が二五六万四一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三九六五万七六〇〇円と右申告税額との差額三七〇九万三五〇〇円(別紙3のほ脱税額計算書参照)を免れ

第三  平成五年一一月一日から平成六年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億〇二一一万三九六二円(別紙1の3の修正損益計算書及び別紙2の3の修正工事原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成七年一月四日、前記玉川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三五三〇万八八六二円で、これに対する法人税額が一一八六万九〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三六九二万〇八〇〇円と右申告税額との差額二五〇五万一八〇〇円(別紙3のほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書四通

一  須田愛(三通)、鶴田敦子、白井洋二、清水眞理子及び大野富續の検察官に対する各供述調書

一  星金二郎の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  大蔵事務官作成の期首仕掛工事高調査書、材料仕入調査書、外注工賃調査書、外注費調査書、工事雑費調査書、期末仕掛工事高調査書、旅費交通費調査書、接待交際費調査書、受取利息調査書、雑収入調査書、損金の額に算入した道府県民税利子割調査書、交際費損金不算入額調査書及び領置てん末書

一  検察事務官作成の雑収入、事業税認定損(二通)及び税務署の所在地に関する各捜査報告書

一  登記官作成の登記簿謄本及び閉鎖登記簿謄本三通

一  玉川税務署長作成の証拠品提出書

判示第一及び第二の事実について

一  検察事務官作成の期末仕掛工事高に関する捜査報告書

判示第二及び第三の事実について

一  大蔵事務官作成の福利厚生費調査書

一  検察事務官作成の期首仕掛工事高に関する捜査報告書

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の雑給調査書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成八年押第六〇七号の1)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の消耗品費調査書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(同押号の2)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の完成工事高調査書、役員賞与調査書、給料手当調査書、通信費調査書及び役員賞与損金不算入額調査書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(同押号の3)

(法令の適用)

* 以下の「刑法」は、いずれも、平成七年法律第九一号附則二条一項本文により、同法による改正前のものを指す。

被告会社の判示各事実は、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、情状によりそれぞれ同法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告会社を罰金一八〇〇万円に処し、被告人の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一〇月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、建築請負工事等を目的とする被告会社の社長である被告人が、架空外注費等を計上するなどして、三事業年度にわたり、合計七六六七万余の法人税を脱税したという事案であり、ほ脱率は平均七七・三パーセントに達している。

被告人は、業績不振の場合に備えて簿外資金を蓄積し、業務関連の交際費や自己の遊興費を捻出するために本件犯行に及んだのであるが、このような動機には特に酌量すべきものがあるとはいえない。下請業者に架空の請求書・領収書を発行させることによる架空外注費の計上、架空の清掃員名等を用いることによる架空外注工賃の計上など、犯行態様も相当悪質である。この種脱税事犯については、一般予防の必要性も大きいことを併せ考えると、被告人及び被告会社の刑責を軽視することはできない。

他方、被告人は査察を受けて以来、事実を認め真摯な反省の態度を示しており、被告会社は、本件三事業年度分の法人税等をその附帯税を含めすべて完納している。被告人には前科・前歴はない。

以上のほか一切の情状を考慮し、被告人に対しては今回に限り刑の執行を猶予し、被告会社に対しては主文の罰金刑を科するのが相当であると判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社・罰金二五〇〇万円、被告人・懲役一〇月)

(裁判官 安廣文夫)

別紙1

修正損益計算書

〈省略〉

修正損益計算書

〈省略〉

修正損益計算書

〈省略〉

別紙2

修正工事原価報告書

〈省略〉

修正工事原価報告書

〈省略〉

修正工事原価報告書

〈省略〉

別紙3 ほ脱税額計算書

白井建設株式会社

(1) 自 平成3年11月1日

至 平成4年10月31日

〈省略〉

(2) 自 平成4年11月1日

至 平成5年10月31日

〈省略〉

(3) 自 平成5年11月1日

至 平成6年10月31日

〈省略〉

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